前回お話ししたグレースピリオドの3つのケースのうちの1つ目が「グレースピリオド発明者発表例外」です。
改正法102条(b)(1)(A)によれば、グレースピリオド中の発明者又は共同発明者(発明者等)による発表は102条(a)(1)における先行技術とはなりません。例えば、下図のように、出願Xのグレースピリオド中に発明者Aが発明イを刊行物Dに発表した場合、発明者Aによる発明イの刊行物Dへの発表は、102条(a)(1)における先行技術とはなりません。
改正法におけるグレースピリオドの起算日は、第1回目にお話ししたようにクレームされた発明の「有効出願日」です。したがって、例えば、下図に示すように、発明者Aが発明イを刊行物Dに発表した後、その日から1年以内に発明イについて日本出願X1をし、日本出願X1に基づく優先権を主張して発明イについて米国出願X2をした場合には、有効出願日である日本出願X1の出願日からグレースピリオドが起算されるので、米国出願X2の審査においては、発明者Aによる発明イの刊行物Dへの発表は、米国出願X2の出願日から1年よりも前になされているにもかかわらず、102条(a)(1)における先行技術とはなりません。
ここで、グレースピリオド発明者発表例外として認められるための条件として、審査ガイドラインでは、(1)クレームされた発明の有効出願日前1年以内に発表がなされたこと、(2)その発表に当該出願の発明者等の名前が著者又は発明者として挙げられていること、及び(3)その発表に他の著者や発明者の名前が挙げられていないことが要求されています。すなわち、下図のように、刊行物の著者がAとBであり、米国出願の発明者がA、B、Cである場合には、その刊行物は102条(a)(1)における先行技術から除外されますが、刊行物の著者がA、B、Cであり、米国出願の発明者がAとBである場合には、その刊行物は先行技術として取り扱われることになります。
なお、出願明細書には、グレースピリオド発明者発表例外に関する陳述を含めることができますが(改正規則1.77(b)(6))、我が国の特許法第30条第3項に規定する書面とは異なり必須のものではありません。
つまり、そのような陳述がない場合であっても、出願人は、先行技術であるとされた発表が発明者等によりなされたことを明らかにした宣誓供述書又は宣言書(帰属の宣誓供述書・宣言書)を提出することによって本規定の適用を受けることができます(改正規則1.130(a))。