14) 日本の出願人として留意すべき事項

これまで米国の先願主義に関連する改正の主要な事項について述べてきましたが、今回の先願主義への移行に際して、日本の出願人として特に留意すべき事項について整理しておきたいと思います。

まず、2013年3月16日よりも前に出願された日本出願に基づく優先権を主張して米国出願をする場合には、適用される法律の選択という問題が生じます。
日本出願に基づく優先権を主張して米国出願をする場合、日本出願に実施例及びそれに対応するクレームを追加して出願することがありますが、2013年3月16日よりも前に出願された日本出願に基づく優先権を主張して2013年3月16日以降に米国出願をする場合には、追加クレームが優先権の利益を享受できる範囲にあるのかどうかによって適用される法律が変わってきますので、米国出願に追加クレームを含める場合には、米国出願時に追加するクレームが優先権の利益を享受できる範囲にあるのかどうかについて十分検討する必要があります。

次に、出願に適用される法律が選択できる場合に、従来法又は改正法のいずれを選択すべきであるかという問題があります。
グレースピリオドの観点からすれば、改正法の方が出願人にとって有利であるかもしれませんが、引用され得る先行技術の範囲からすれば、従来法の法が出願人にとって有利であるかもしれません。
いずれの法律を選択すべきかは、日本出願以前における発表の有無や当該技術分野における他社の出願動向などを検討し、総合的に判断すべきであると思われます。

また、適用される法律の選択による予期しない不利益を防ぐためには、日本出願と全く同一の内容にして従来法の適用を受ける米国出願と、日本出願の内容に追加の実施例及び対応するクレームを追加して改正法の適用を受け得る米国出願の両方を出願するというのも有効な方策の1つであるかもしれません。

さらに、改正法102条(b)に対する対策と準備についても留意しなければなりません。
例えば、グレースピリオド中に発明者等により発表がなされた場合(102条(b)(1)(A))、第三者による発表の前に発明者等による公表がなされた場合(102条(b)(1)(B))、及び先行出願の有効出願日前に発明者等による公表がなされた場合(102条(b)(2)(B))には、宣誓供述書又は宣言書においてその発表が発明者等によりなされたことを明らかにできるように、その公表の日付及び内容を特定できるように準備しておく必要があります。
また、グレースピリオド中に発明知得者により発表がなされた場合(102条(b)(1)(A))、第三者による発表の前に発明知得者による公表がなされた場合(102条(b)(1)(B))、及び先行出願の有効出願日前に発明知得者による公表がなされた場合(102条(b)(2)(B))には、発明知得者により発表された主題が直接的又は間接的に発明者等から発明知得者に伝達されたことを宣誓供述書又は宣言書において明らかできるようにしておく必要があります。
このような観点からすると、従来から奨励されてきたラボノートに加え、今後は、発明者等による発明の発表の内容及びその時期についての記録と、発明内容の発明者等から第三者への伝達(出願人企業内での伝達も含む)に関する記録を詳細に残していくことが重要になってくると思われます。

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