答え:あります。
日本では、出願中の第三者の特許出願に対して特許化を阻止するために、その出願に係る発明が新規性や進歩性を有していない、あるいは記載要件を満たしていないなどの情報(すなわち拒絶理由を含むものであるという情報)を特許庁に提出することができます(特許法施行規則第13条の2、参考:特許庁)。これは一般的に「情報提供」と呼ばれていますが、アメリカでも同様の制度としてThird Party Preissuance Submissionという制度があります(35 USC § 122)。類似の制度としてProtestの手続(37 CFR 1.291)もありますが、ここではより利用しやすいThird Party Preissuance Submissionについて説明いたします。
提出できる者
出願人及び情報開示義務を負っている者でなければ誰でも(個人及び法人)提出することができます。
提出者は身元を明らかにしなければなりませんが、例えば米国代理人などに提出者となってもらうことで、実質的に匿名で提出することが可能です。
提出できる文献
特許公報、特許出願公開公報、他の刊行物
これらの文献を提出することが前提となっているため、日本のようにクレームにおける記載不備などを指摘することはできません。
提出可能な時期
以下の(1)と(2)のうちいずれか早い方までに提出することが可能です。
(1) 許可通知が発送された日
(2) 出願が最初に公開された日の後6ヶ月又はいずれかのクレームに対する審査官による最初の拒絶の日のいずれか遅い方
PCTから米国への移行出願の場合には、(2)の「最初に公開された日」は、国際公開日ではなくUSPTOにより最初に公開された日となります(MPEP 1134.01)。
上記(1)と(2)の日よりも前に提出することが求められており、同日に提出された場合は不適式な情報提供とされるので注意が必要です。
その他の条件
以下のような条件が定められています。
- 提出するそれぞれの文献について出願に係る発明との関連性について簡単な説明(Concise Description of Relevance)を行う必要があります。
特に決まったフォーマットはありませんが、刊行物の開示事項を順番に記述していく形式やクレームの構成要素と刊行物の開示事項とを対比する表のような形式が例として挙げられています。
この簡単な説明では、文献について記載されている事実についてのみ言及することが求められており、例えば進歩性がない理由など、クレームが特許性を具備していないという主張は認められていません。例えば、クレームの限定は設計事項であるなどの主張が認められないので注意が必要です。 - 非英語文献の場合は英訳が必要とされますが、機械翻訳も認められています。
- 提出者は、自分が情報開示義務を負う者ではないこと、情報提供が法律の規定に適合したであることを陳述する必要があります。
- 提出に当たっては所定の手数料(10文献ごとに180米ドル(2022年5月時点))を支払う必要があります。提出する文献が3つ以下であり、提出者が最初のかつ1つだけの情報提供をする場合には手数料は免除されます。
- 刊行物の発行日が不明な場合には、当該刊行物が発行されたことの証拠を提示する必要があります。このような証拠は、例えば宣誓供述書や宣誓書などの形で提出します。
注意事項
USPTOが発表している統計(2015年)によりますと、提出されたもののうち21%ほどが不適式なものとされているようですので、提出前の検討を十分にしておくことが重要だと思われます。