7) 拡大先願

改正法102条(a)(2)はいわゆる拡大先願について規定しています。

この規定によれば、クレームされた発明が、当該発明の有効出願日前に有効に出願された特許又は特許出願であって、発明者として他の者を含み、かつ151条[特許の発行]により発行された特許又は122条(b)[特許出願の公開]により公開された特許出願又は公開されたとみなされた特許出願に記載されていた場合には特許を受けることができません。

この規定は従来法102条(e)に類似するものですが、従来法102条(e)における判断基準時は「発明時」でしたが、先願主義への移行に伴い、本規定における判断基準時は「有効出願日」となっています。

先行する出願がいつの時点で「有効に出願された」とするのかに関して、先行する出願が優先権等の利益を享受できるものである場合は、その優先権等の基礎となる最先の出願日において「有効に出願された」ものとされます(改正法102条(d))。したがって、パリ条約の優先権を主張した米国出願の場合、従来法102条(e)における先願の後願排除効は米国への実際の出願日とされてきましたが(いわゆるHilmer doctrine)、改正法下ではその基礎出願の出願日から後願排除効が生じることとなります。すなわち、下図に示すように、日本出願Z1に基づく優先権を主張してなされた米国出願Z2は、従来法102条(e)によれば米国出願Z2の出願日から後願排除効を有しますが、改正法によれば日本出願Z1の出願日から後願排除効を有することになります。したがって、従来法と比べると、改正法においては、先行技術として引用される先願の範囲がより広くなっているので注意が必要です。

従来法と改正法における先願の後願排除効

本規定により先行技術となり得るものは、米国特許、米国特許出願公開公報、及び国際公開された国際出願の3つですが、国際出願については従来法102条(e)と取り扱いが異なるので注意が必要です。従来法102条(e)においては、2000年11月29日以降に出願された国際出願については英語で国際公開がなされた場合にのみ先行技術となっていましたが、本規定においては、出願日に関係なく、また公開の言語や米国への国内移行の有無とは関係なく、米国を指定国とした国際出願であって国際公開されたものであれば先行技術となり得ます。

また、本規定により先行技術とされるものは、従来法102条(e)と同様に103条の非自明性の判断においても先行技術とされます。この点は、我が国特許法第29条の2における「他の特許出願又は実用新案登録出願」が進歩性を否定する先行技術とならないのと対照的です。

発明者として「他の者」を含むかどうかに関して、審査対象の出願と先行出願の間で少しでも発明者に相違があれば、発明者として「他の者」を含んでいるものとされ、その先行出願は本規定における先行技術となります。

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